i-Construction,Society5.0と地理教育必履修化

 

i-Construction,Society5.0と地理教育必履修化

~NPO法人全国GIS技術研究会による学校教育支援活動~

 

NPO法人全国GIS技術研究会 理事長   碓井照子                    

下図は、全国GIS技術研究会が行った工業高校の先生を支援するGIS研修である。このような活動の背景には深刻な測量業の担い手層の減少がある。一方で、建設測量業のICT利活用は急速に進んでいる。2016年4月,国土交通省のi-Constructionの報告書が「i-Construction 建設現場の生産性革命」として公表[1]された。2014年時点での建設技術者340万人のうち、1/3の110万人が高齢化で辞職し、建設現場が成立しえない状況が推定されている。調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいて、3次元データを一貫して使用するICTを導入し、土工における抜本的な生産性の向上を図るICT土工が次世代の建設業の姿であるという。報告書では、当面の課題として3次元測量・設計データ作成基準の整備とICT建機の普及が必要であり、国土交通省では15の新基準を国直轄事業から導入するとした。その中にドローン等を活用した測量マニュアル(UAVを用いた公共測量マニュアル(案))の整備、 調査・設計等の3次元データによる納品要領(電子納品要領(工事及び設計)の整備、3次元データによる出来形管理基準と要領(土木工事施工管理基準(案)等)の整備 3次元データによる工事検査基準(地方整備局土木工事検査技術基準(案)) 等の整備がある。NPO法人全国GIS技術研究会のメンバ―は、地方の中小規模の測量設計業に関する企業が多い。特にUAVによる3次元測量・設計データ作成、出来高管理基準などには関心が高い。しかし、地方の測量専門学校への進学者が激減し、この業界の人材不足が深刻なのである。

また、土木系や地球惑星系(地質・地理を含む)への大学進学者が減少していることも深刻といわざるを得ない。一方で、バイオ関係、化学系への進学者、就職希望者は多い。この要因の一つは、高等学校の履修科目にある。全国の高校で、この20年間、必履修科目から外れた地学や地理の教員が減少しつづけ、高校生の国土づくりや測量、地質や地形、気候に関する基礎的知識が低下した。しかし、今回の指導要領改訂でやっとこの現象に歯止めがかかることになった。

今から5年後、全ての高校生は、「地理総合(仮称)」を1年生の必履修科目として履修することになった。新科目「地理総合(仮称)」では、地図/GISをこなして様々な地域課題をいかに解決したらいいかをアクテイブラーニング形式で学ぶことになる。また、持続可能な環境・防災・地域づくりなども重視されている。高校生は、GISのスキルだけでなく、GISの基礎的知識を学ぶが、ここで重要なことは、インフラ情報としての基盤地図情報をはじめ、電子国土づくりの原理を学ぶことである。つまり、仮想空間と現実空間が融合した社会つまり、Society5.0[2]の具現化した電子国土のインフラ整備の重要性も学習することになる。

近い将来、i-Constructionで生成される3次元データから電子国土というSociety4.0のインフラ整備が行われることの重要性を学ぶのである。そしてこの電子国土の上で、スマート農業、スマート林業、スマート建設業をGISで利活用する素養を学ぶことにより、地域を活性化し、地方創生へ社会参画可能な国民が育成される。




[1]国土交通省I-Constriction委員会(2016) 「i-Construction 建設現場の生産性革命」http://www.mlit.go.jp/common/001127288.pdf 2016年9月10日参照

[2]内閣府総合科学技術・イノベーション会議が、2016年から5年間の第5期科学技術基本計画において重要な基本指針の中で明示した情報革命の次にくるICTを活用した仮想世界と現実世界が融合した超スマート社会

                                              

「GIS NEXT  2016.10   第57号  掲載記事より」